外伝 ナゴミ・オソドリ編
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ここは下界の茶屋の前。ナゴミはそこで団子をぱくついている女性に、必死に頼み事をしていた。 | ||
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![]() | だから、喧嘩神輿はあなたが居ないと成り立たないって何度も申し上げてるじゃないですか! | |
![]() | 去年も祝詞を奉納して頂いてたじゃないですか、あれと同じやつを今年も──。 | |
今年は無理です。お断りします。 | ![]() | |
![]() | はぁ……例年通りすじこ1年分で手をうちましょう。それならいいでしょう? | |
嫌です、お断りします。今年のこの時期は絶対働かないって決めたんです。 | ![]() | |
![]() | もーー!! そこをなんとかお願いしますよ、今年はなんなんですかいったい! | |
ナゴミはいらついた様子で地団駄を踏みながら叫ぶ。 | ||
そう、実はこのやりとり、毎年のことだった。 | ||
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喧嘩神輿の主催であり、願いを叶える神力を持つ、物神の一柱オオミコシ。 | ||
実は、この神はとても気難しく、すぐ機嫌を損ねてしまう。 | ||
一度は「叶える願いがしょうもない」という理由だけでヘソを曲げてしまったり…… | ||
ちょっと気分が乗らない、という理由で開催を見送ったりしたという過去もあった。 | ||
そのため、喧嘩神輿が行われる際は、その機嫌を取るため毎回祝詞が奉納される。 | ||
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そして、その祝詞を奉納するのは、毎年モミジの仕事となっており……。 | ||
だいたいの場合、先程ナゴミが言っていた「すじこ1年分」でカタがつくのだが……。 | ||
何故か今年のモミジはテコでも動かない、といった様子。 | ||
しかも、彼女はなぜだかその理由を話してくれないのだ。 | ||
![]() | しかるべき理由であれば私だって諦めたり別の手段を考えたりしますよ? | |
![]() | でもそれがわからない以上、その要求を飲むことはできません! | |
![]() | ですから……。 | |
こんこんと説教していたナゴミの言葉はそこで止まる。 | ||
なぜなら、今まで話していたモミジの姿がこつ然と消えていたからだ。 | ||
![]() | あンのグウタラ巫女神! 逃がしませんよ!! | |
![]() | 絶対とっ捕まえて必ず祝詞をあげさせてやりますからね……! | |
ナゴミは目をこらして、モミジが残した神気の残り香を睨みつける。 | ||
苦労の色にまみれた追いかけっこが始まった! | ||
![]() | ……この方向に逃げたのは間違いないですね。 | |
目をこらしながら、ナゴミはモミジの逃げた後を探っていく。 | ||
路地を抜け、大通りを逆走し、辿り着いたその先には……。 | ||
なんと、かりそめの命を与えられた、破れ提灯が浮かんでいた。 | ||
![]() | まったく、本当に小細工ばかりですねあのグウタラ巫女神は! | |
![]() | 私はね、こんなところで足踏みしてるわけにはいかないんですよ!! | |
錫杖と団扇を構え、ナゴミはキッと行く手を阻む提灯を睨みつける。 | ||
![]() 神様の……願いを叶えなくちゃならないんですから!! | ||
(戦闘終了後) | ||
……ほんのすこし移動したところで、ナゴミはうずくまっているモミジを見つけた。 | ||
地面に突っ伏しながら、肩で息をしているモミジに、ナゴミは遠慮気味に声をかける。 | ||
![]() | ……あの、モミジ様? | |
はぁ、はぁ……な、なんですか、いったい……。 | ![]() | |
はぁ……今ものすごく……はぁ……横っ腹痛いので……後にしてもらえますか……。 | ![]() | |
息も絶え絶えのモミジは、この世の終わりのような声を出してそう言う。 | ||
そんな彼女にナゴミは近寄ると、じっくりとその様子を観察しはじめた。 | ||
![]() | ……ふむふむ。なるほど。なるほどなるほど、そういうことですか。 | |
な、なんだっていうんです……ジロジロ見ないでくださいよ失礼ですね。 | ![]() | |
![]() | モミジ様、去年より多少ふくよかになられませんでした? | |
![]() | あー、ホラぁ、モミジ様の二の腕ふにゃふにゃじゃないですか。 | |
さ、さわらないでくださいよ! なんなんですか急に! | ![]() | |
まったく……あの人といいあなたといい、なんでこう二の腕を触りたがるんですか……。 | ![]() | |
![]() | (ほう、「あの人」とな) | |
その言葉を聞いた瞬間、ナゴミの第六感がすさまじく冴え渡った。 | ||
猛烈な勢いで、彼女はモミジが発した言葉から鍵となる単語を抽出しはじめる。 | ||
今年は無理……この時期は絶対働かない……去年よりふくよか……あの人……。 | ||
その推理が導き出す結論は……! | ||
![]() | それ幸せ太りでは。いい人見つかったんで今年はその人と一緒にいたいと? | |
ばっ!? ……は? えっ!? | ![]() | |
![]() | 察するにその方との記念日的なそういうアレが近々あると。 | |
ほぁッ!? なっ、ちょ……はァ!? な、なんで知ってるんですか! | ![]() | |
![]() | 知りませんでしたよ、今まで。察するに、ってちゃんと言ったじゃないですか。 | |
ぐっ……! | ![]() | |
顔を真っ赤にして、モミジはナゴミを睨みつける。 | ||
だが、ナゴミはそんな彼女を見て、ふっと笑ってこう答えた。 | ||
![]() | ……はぁ。仕方ありませんね。昨年は喧嘩神輿の期間中ずっとお付き合い頂いてましたが……。 | |
![]() | 今年は最終日の決勝だけ、かつ日帰りで結構ですよ。 | |
…………。 | ![]() | |
……ほんと? | ![]() | |
![]() | ええ、ほんとです。今年だけですからね。 | |
すじこ1年分は? | ![]() | |
![]() | つけましょう。私からのお祝いも兼ねて。 | |
![]() わぁい! ナゴミちゃん大好き!! 祝詞でもなんでもやりますよ!! はいはい、私も扱いやすいモミジ様が大好きですよ。 | ||
……こうして、喧嘩神輿が始まる前日、やっとすべての用意が整った。 | ||
![]() | はぁ……ホント、神様ってのは個性強めの方が多いですね。 | |
![]() | ……ま、そのぶん楽しくはありますけれど。 | |
様々な準備と用意を終わらせたナゴミは、この日やっとゆっくりと眠ることができたのだった。 |
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